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Last Modified 1 Dec. 1998
規制緩和及びGATSにもとづく税理士制度改革の方向性
東京地方税理士会制度部
1998年12月 1日
1.はじめに(問題の所在)
日本税理士会連合会が1997年策定した「税理士法改正タタキ台21項目」は、規制緩和施策及びWTO(世界貿易機関)のGATS(サービス貿易一般協定)が税理士制度に及ぼす影響の問題点に関して、今後の検討課題として議論を保留していた。
しかし、今日では税理士業務に係る規制緩和施策の論点が明らかになってきており、また、WTOによる公認会計士の国際相互承認等の問題点も明確になってきている。
当制度部では、規制緩和施策等が税理士制度に与える影響があまりにも大きいものがあるという認識の上に立ち、これまでの「税理士法改正タタキ台21項目」にとらわれずに、あらためて税理士制度の基本的な問題点を考察し、早急に取り組むべき税理士制度改革の方向性ないし税理士法改正の視点を論述する必要性があるものと考えた。
まず第一に、政府が平成10年3月31日に閣議決定した「規制緩和推進3か年計画」は、わが国経済社会の抜本的な構造改革を図り、国際的に開かれ、自己責任原則と市場原理に立つ自由で公正な経済社会としていくとともに、行政の在り方について、いわゆる事前規制型の行政から事後チェック型の行政に転換していくことを基本とする」ものであり、そして、「資格制度の見直し」については、「公的資格制度について、業務独占規定、資格要件、業務範囲等の在り方を含め、人々の意欲・能力を有効に生かす等の観点を踏まえ、見直しを行う。」と述べている。
さらに、分野別の措置事項として、法務関係では、外国法事務弁護士制度の見直しや法曹人口の大幅増員等、弁護士事務所の法人化、そして、弁護士、公認会計士、税理士、弁理士等がそろった「総合的法律・経済関係事務所」の開設などが挙げられ、また、その他として、WTOの協議にかかる公認会計士の国際相互承認制度や行政書士の業務独占の在り方とともに他の資格制度の業務独占についての検討方が明記されている。
これに関して、行政改革委員会の最終意見(平成9年12月12日)では、業務独占に関する見直しが進められる過程で、「各資格制度の実態を踏まえてその垣根を低くし、相互参入が可能となるということは当然の流れである」と述べている。
また、日税連に1998年1月に設置された「税理士法改正対策特別委員会」と自民党の「税理士制度改革推進議員連盟」のワーキンググループとの勉強会では「総合的法律経済関係事務所」との関連から税理士会の見解が求められている。
このような状況に対し、税理士の業務独占問題に関しては、これまでの無償独占業務が有償独占業務となった場合について、納税者から有償で税理士に業務を依頼する有用性(メリット)の制度的保証(例えば、税理士の使命として、納税者の権益擁護の代理人としての位置づけ、税理士の税務訴訟代理権の確立、税務監査による税務調査の簡略制度など)についての議論が必要になってきている。また、会計士の資格相互承認に伴う外国公認会計士の税理士登録(税理士法第3条2項参照)の問題が提起されている。さらに、会計監査業務についても会計士と税理士の業務の垣根が議論されなければならない。
第二には、WTO(世界貿易機関)のGATS(サービス貿易一般協定)にもとづく国内法の規制緩和の問題が提起されており、この関係でも「税理士法改正タタキ台21項目」の見直しが議論されなければならない。
例えば、市場参入規制にかかる量的規制としては、外国の自由職業サービス(弁護士、会計士、税理士等)に関する@サービス提供者の数の制限、Aサービス取引総額の制限、Bサービス事業所総数の制限、C雇用者総数の制限、Dサービス事業体の形態の制限、及びE外国の資本参加の制限が明示されており(第16条)、また、質的規制として、資格の基準に関して「合理的、客観的かつ公平な態様で実施」されなければならないとされている。
この点、税理士試験制度の見直し、試験合格者の数の制限、2ヶ所事務所の制限、税理(士)法人などの問題が議論される必要がある。
また、近い将来、前記会計士の資格相互承認に関するWTO自由職業サービス作業部会では、GATSの資格相互承認(第7条)が合意され、外国公認会計士の資格承認試験が行われることが予想される。これに関し、外国公認会計士の税理士登録の問題が起こってくる。
第三には、前記規制緩和施策に大きな影響を与えている米国通商代表部(USTR)の最近(平成10年3月31日)の外国貿易障壁報告の中では、日本に対して述べられている個所でサービス貿易障壁に関して、会計・監査業務及び法律業務の規制緩和の指針について述べていることに注目しなければならない。
すなわち、弁護士業務の障壁については、政府の規制緩和施策の中で改善を求め、会計・監査業務については、WTO自由職業サービス部会を通して専門業務の自由化を求めて行く方向を示している。
また、弁護士業務については、1987年から許可された「外国法事務弁護士」(1986年「外国弁護士による法律事務の取り扱いに関する特別措置法」に基づく)が、日本人弁護士や税理士、弁理士等を雇用することを禁止していることやパートナーシップ形成を禁止していることに対して、これらを解禁して、「総合的法律経済事務所」の開設を要求している。
さらに、会計・監査業務については、WTOで資格相互承認が合意されることにより、外国人の公認会計士が監査業務を行うことができるようになり、さらに税務サービスへもその進出を求めている。
以上のような、規制緩和施策やWTOの指針のわが国に対する導入を議論する場合、重要な視点として、一つには、職業専門家のサービスに対する規制緩和施策が、一般の商品やサービスと同じような市場原理で論ずることが妥当であるか否か、二つには、例えば米国に見られる弁護士の数の増大に関連するいわゆる訴訟社会の弊害や巨大法律事務所及び巨大会計事務所による業務寡占の弊害がわが国の市場に参入(輸入)される恐れがあることも十二分に想定しなければならないということである。
2.税理士制度改革の方向性
ここでは、上記のような規制緩和施策やWTOの指針に照らし、「税理士法改正タタキ台21項目」にとらわれず、あるべき税理士制度改革の方向性について、特に重要と考えられる視点を提言する。
(1)税理士の使命と業務独占性
税理士制度は、その制度目的が税理士の使命(税理士法第1条)に表現されているように、税務に関する専門家として納税者の信頼にこたえ、納税義務の適正な実現を図るものとして、その存在理由が示されている。その制度が長期に亘り国民に受け入れられていることは、それが社会的公共の役割を担ってきたからに他ならないといえよう。世界の中で税理士制度を有する国は、日本、ドイツ及び韓国など比較的少数になっているが、各国の制度は、その国の政治的、社会的、経済的事情によって構成され表現されている。例えば、米国では、わが国の税理士業務に相当するものは、会計士、弁護士、登録代理人などが行っており、わが国のような税理士による業務独占の制度とはなっていない。
税理士の行う業務は、他人の求め応じて、租税に関し、官公署に対する税務代理(主張陳述の代理・代行)、税務書類の作成、税務相談を業とする(有償であると無償であるとにかかわらず)ものであり(同法第2条1項)、独占的な業務とされている。
税務に関する専門家制度すなわち税理士制度を設けた趣旨は、税務行政の円滑な運営を期するともに、納税者の権益を擁護し、税務行政の公正性を確保するためである。
従って、仮に税理士業務の独占性が規制緩和施策にもとづき見直されるとしても、この税務に関する専門家制度の役割の公共性を度外視することはできないものといわなければならない。
規制緩和施策により税理士の業務の独占性が議論される場合、先行して議論された行政書士の書類作成業務の独占廃止に照らしてみると、税理士の「税務書類の作成」業務の独占が見直され、税理士以外の誰でも税務書類の作成ができるようになることが予想される。この場合、有償・無償に関係なく業として税理士以外による税務書類の作成代理が認められることが想定されている。
税務代理や税務相談の業務は、高度な専門的知識・技能が要求され、税理士の専門的業務であると考えられるが、税務書類の作成業務に関しても、一定の簡易な書式(フォーム)にもとづき記入する場合を除き、その作成に当たっては、一定の専門知識が要求される場合がほとんどであるといわなければならないが、税理士以外の誰でも業として税務書類の作成ができるとした場合、行政運営の効率化の観点や納税者の法的安定性に反する事態が生ずることが危惧されよう。
従って、仮に規制緩和施策にもとづき税理士業務の独占性を議論する場合、税理士制度が有する行政運営の円滑化や納税者の権利保護という公共性ないし公益性を度外視して、一般の商品やサービスと同じような市場原理で論ずることは妥当ではないというべきである。よって、基本的には、税理士業務に対する規制緩和施策には反対を唱えるものである。
しかしながら、一方では、規制緩和施策を考慮した場合、あらためて納税者が税理士に業務を依頼する社会的有用性(メリット)の制度的保障の充実性について議論しておく必要がある。
税理士の使命を考えた場合、納税義務の適正な実現を図るという観点から税務行政の一翼を担うという公共的使命が強調されると、税理士法(及び会則)上の無償税務援助の義務や帳簿作成の義務など各種義務規定並びに監督官庁からの監督が重視される。他面では、税理士業務の無償独占性と各種義務規定ないし行政庁の監督との関係は、相互に関係があると見ることができる。
仮に、税理士の業務独占性が見直され、税理士業務がいわゆる有償独占業務(税理士以外の者が報酬を得る目的でなく、すなわち無償であればその業務を行うことができる)として構築される場合には、納税者が有償で税理士に依頼するための税理士制度の社会的有用性を考えると、納税者の権益を擁護する代理人としての役割が一層重要視されてくることになる。
税理士の使命として納税者の権益擁護という公共的使命が強調されると、税務行政手続の適正化や税理士の税務訴訟代理権の制度的必要性がより増してくることになる。このことは、弁護士の業務有償独占性(弁護士法第72条)と比較することができ、その結果、税理士の使命が弁護士の使命に近づくことになる。
この点、前記行政改革委員会の最終意見では、弁護士による法律事務独占の問題について、「各資格制度の実態を踏まえてその垣根を低くし、相互参入が可能となるということは当然の流れである」と述べており、これに関連して、日税連は(日本税理士政治連盟と共同して)、「弁護士の法律事務独占の見直しについて」と題し、1998年3月に税理士の税務訴訟代理権の確保に関する意見書を自民党の司法制度特別調査会に提出していることは注目される。
かくて、税理士業務の規制緩和の観点から、税理士法第1条(使命)の見直しが議論される必要があるといえよう。
(2)税理士会の自治権の確立
規制緩和施策が税理士に及ぼす影響は、税理士をその会員とする自治的団体である税理士会の性格にも及んでくるものと考えられる。
前述したように、税理士の公共的役割が納税者の権益を擁護する代理人として位置づけられると、税理士の自己責任が重視されるとともに、現在の税理士及び税理士会が大蔵省ないし国税庁の監督に服するという制度が見直されるようになろう。
また、税理士業務の独占性が緩和され、誰でも税理士業務の一端を担うことができるということになると、これを規制する監督官庁が存在しないことに比べ、税理士及び税理士会に対する監督の存在が不公平なものとなってくる。
税理士及び税理士会に対する監督権ということは、すなわち規制であるが、税理士業務の規制緩和ということは、税理士及び税理士会に対する監督の緩和ということになり、新たに税理士が税理士会の自治的規律権ないし監督権に服するというシステムに改正されなければならない。
これに加えて、全国の税理士の団体組織としては、個々の税理士を構成員とする日税連組織に改組される必要がある。
(3)税理士業務と会計・監査業務の関係
これまでに税理士の代理人としての立場は、会計監査人としての立場とは相容れないという議論がなされてきた。事実、会計監査人が税務に関する業務を提供することは禁止されている(商法特例法第4条2項2号、公認会計士法34条の11、公認会計士法施行令第7条参照)。
今日提唱されているGATSによる公認会計士の資格相互承認問題は、米国を中心とする会計士の外国進出(市場参入)を意味するものであり、多くの米国公認会計士がわが国の市場に参入する場合、否応なく税務サービスへも参入してくる可能性がある。
外国公認会計士が税理士登録(税理士法第3条2項)することを制限するとしたら、GATS第6条(国内規制)、第7条(資格の相互承認)、第16条(市場参入)、第17条(内国民待遇)等の規定に違反する可能性があるか否か。また、第2条(最恵国待遇)で定める特定の国のサービス提供者に資格相互承認の待遇を与えたら、他の加盟国にも同等の待遇を適用しなければならいという規定をどう解するか、議論がある。
わが国では、監査業務は公認会計士(又は監査法人)の独占業務とされているが、例えば、資格相互承認にもとづき、米国公認会計士が日本において監査業務を行うことができるようになる場合を想定すると、両国の異なった資格取得基準(又は試験の難易性)があまり重要視されなくなっていくことになる。
前記USTRの外国貿易障壁報告書の中で述べられている次の内容は、資格試験の問題よりも業務の商業的拡大に重点が置かれていることが伺われる。
すなわち、「米国の専門職業務提供者は、きわめて競争力が高く、米国政府はそうした業務の輸出が今後も引き続き伸びると予測している。これらの業務は、米国からの輸出においても、それ自体が重要であるだけでなく、米国からの他の業務や製品を日本へ輸出する者の日本市場へのアクセスを容易にする手段としても重要である。加えて、米国の専門職業務提供者は、国際市場で幅広く事業を行うことで得た価値ある専門知識を、彼らが業務を行う国の経済に革新をもたらすことができる。」
米国の公認会計士(及び監査法人)は、監査業務だけではなく税務業務も行っており、従って、関与先企業の監査業務と税務業務とが相容れないものという思想は存在していない。
わが国は、米国とは異なり専門職業の細分化が進んでおり、米国には日本のような細分化された専門的職業人としての税理士、司法書士、社会保険労務士、土地家屋調査士、行政書士などは存在しなく、弁護士や公認会計士がこれらの業務を行っている。
また、ドイツのように、規制緩和問題以前に税理士が会計士(経済検査士)の資格を取得するために一定の試験を行うなどして税理士と会計士の垣根を低くしている国もある。かって、わが国でも、中小会社の外部監査制度(会計調査人制度)の導入が議論されたとき、旧西ドイツの立法例を参考にして、税理士から公認会計士への移行試験制度の導入法が検討されたことがある。
規制緩和や資格承認が進んで行くことは、同類の業務を行う税理士と公認会計士の業務独占性が失われ、資格相互間の垣根が低くなる傾向が強まって行くことが予想され、従って、その傾向を予定した資格制度の改革が要請されるようになる(上記行政改革委員会の「各資格制度の実態を踏まえてその垣根を低くし、相互参入が可能となるということは当然の流れである」という趣旨参照)。
このことは、税理士と会計士の相互資格取得制度の見直しが議論されなければならないことを意味するが、予想される一定の中小会社に対する監査制度の導入に合わせた対応策としても議論されなければならない。
(4)税理士試験制度の改革
規制緩和施策に伴い、一つには、税理士の税務訴訟代理権を確立するため、二つには、税理士と公認会計士の垣根が低くなり、税理士と公認会計士の資格の兼業を合理化するために、現在の税理士試験制度を見直す必要性が生じてくる。
税理士制度の性格は、第一義的には、税務に関する専門家として納税者の権益を擁護するための代理人であり、このために税理士試験制度に法律科目を追加するともに試験の在り方を見直す必要がある。
また、税理士が望むときは、公認会計士の資格を兼業することができるものとし、これに対する試験制度の見直しが検討されなければならないだろう。
税理士は、これまで税務に関する専門家として社会的に有効な役割を担ってきており、今後も税務に関する専門家の有用性は否定することはできないだろう。
しかし、現代の複雑化した租税制度や税務行政に対応し、納税者の代理人として国際的にも認容される税理士制度に構築するためには、現在の数値的・暗記的に偏した試験制度を抜本的に見直す必要がある。
以上のような観点から、税理士試験制度の改革案として、例えば次のように考えることができる。
受験資格は特に制限せず、税理士試験を一次と二次に分け、一次試験は、択一方式で行うことが検討されてもよい。一次試験の内容は、国税通則法、所得税法、法人税法、相続税法、消費税法、地方税法等の税法及び憲法、会社法、民事訴訟法等の法律さらには英語とし、全般的に基礎的理解を試問する。二次試験は、論文方式で、法規集の参照を認める税法3科目(選択)及び会計学2科目(簿記論、財務諸表論)とする。
試験科目に英語を加えることは、韓国の税務士試験制度でも行われており、業務の国際化に対応するものとして考えられなければならない。
さらに、試験の難易性としては、現在の平均合格年数6〜7年の期間を短縮するものとし、例えば、一次試験合格者は、翌年までその合格を持ち越すことができるようにすることや、一次及び二次とも全科目を年1回の受験にするものとすることが考えられる。
税理士試験の一次試験の免除は原則として認められず、二次試験の試験科目の免除については、現在の修士の資格による免除に関し、税法科目の修士にあっては二次試験の税法科目のみ免除し、会計科目の修士にあっては二次試験の会計科目を免除するものとする。但し、ダブルマスターによる全科目免除は禁止し、税法科目又は会計科目のいずれかは必ず受験するものとする。なお、この場合の修士資格取得は通信大学院によるものは除くものとする。
また、一定の税務職員については、二次試験の税法科目を免除とすることが考えられる(さらに、20年以上勤務年数の一定の税務職員には、一次試験も免除することも考慮できる)。
さらに、公認会計士が税理士資格を得るためには、二次試験の税法に関する科目の試験を受けるものとし、同様に、弁護士が税理士の資格を得るためには、二次試験の会計学に関する科目の試験を受けるものとする。なお、この場合の試験は、上記の二次試験とは異なるものを採用し、一定の実務経験者には研修制度によりその試験に代わることができる制度が導入されてもよいと思われる。但し、外国公認会計士が税理士の資格を取得する場合には、二次試験の税法科目に関する試験の合格を義務づけなれなければならない。
そして、税理士試験制度の改革に合わせて、税理士が公認会計士資格を取得するための試験制度を導入して、監査論の試験を受けるか一定の税理士実務経験者には研修制度によりその試験に代わることができる方途が考えられる。
(5)総合的法律・経済事務所と税理士法人の問題
「規制緩和推進3ヶ年計画」では、分野別措置事項として法務関係に関し、「総合的法律・経済関係事務所」の開設について、「弁護士、公認会計士、税理士、弁理士等がそろった総合的な法律・経済関係事務所の開設について、関係省庁間において、検討を行い、平成10年度中に結論を得て、これを踏まえ、速やかに所要の措置を講ずる。」として、原則として平成10年度中に結論を得るものとしている。
総合的法律経済事務所については、弁護士法第72条等の各資格業者における業務独占(無資格者による業務執行の弊害)規定と業務の独立性の確保、弁護士等の自治との関係等の問題があるとされている。
この問題に関して、法務省の「外国弁護士問題研究会」の1997年10月30日の最終報告では、米国政府が要請した、外国法律事務所による関連日本人専門職(税理士、弁理士、司法書士等)の雇用に対する制約を除去する件について何も述べられていない。
また、この問題について、弁護士会の意見は批判的であり、1998年6月6日のIBA(国際弁護士協会)理事会では、「異業種間共同経営については、弁護士職務の独立性、倫理保持を確保する上で重大な問題が生ずるのでこれを禁止するか、又は高度に規制すべきこと」の決議がなされている(日弁連新聞295号、平成10年8月1日参照)。
他方、行政改革委員会の意見書では、この問題について、「各資格制度間の兼業や相互参入をより緩やかなものとし、いわゆる法律総合事務所の設立を可能にするなど、ワンストップでのサービス提供に対する要望に応えていくことが必要である。」と述べられている。
このような総合的法律・経済事務所の開設が規制緩和施策として提案されていることは、その背景には、大企業の経済的要求や米国の外国弁護士による日本の弁護士、公認会計士、税理士、弁理士等の雇用を想定した要求にもとづくものがあると考えられる。
他面、この問題は、経済のグローバル化に対応した法務、会計並びに税務の国際化という側面を無視することができず、税理(士)法人設立の問題と同じ論点が横たわっているものであり、基本的には肯定的に対処すべきものと考える。
すなわち、この問題は、「税理士法改正タタキ台21項目」の中で提案されている税理士法人導入論の延長線上にあると考えられるが、さらには、法律事務所の法人化と合わせて問題となるものと考えられる。
この場合、現在は制限されている監査法人の税務サービスの兼業についての見直しも合わせて議論されることになろう。
さらに、この問題を議論する場合に重要視されなければならないことは、一つには、法人化として、法人の公共性ないし公益性を重視し株式会社などの営利法人は除かれること、二つには、巨大な総合事務所の業務寡占化に対する公正取引上の規制が検討されなければならないということである。
ここで提言するとすれば、単に「総合的法律経済事務所」の創設を批判するだけではなく、上述した法務、税務及び監査にかかる業務独占の見直し(垣根を低くし相互参入が可能になるという施策)の議論がなされなければならず、これを踏まえて、各資格の独立性ないし倫理性については、各資格の団体の自治に委ねるともに、総合的法律経済事務所(ないし法人)を所轄・規律する各資格団体の連合協議会を設けていくことが検討されなければならない。ドイツでは、総合的法律経済事務所法人を監督するシステムを前提に、税理士、公認会計士、弁護士などが一つの法人を組織しているといわれている。
(6)納税者の保護と税理士の職業賠償責任保険制度
税務に関する業務に関し、ドイツ、オーストリア、フランス、イギリス、韓国では職業賠償保険制度が義務づけられている。他方、米国、カナダ、オーストラリア、イタリア、台湾、日本等は職業賠償保険加入が任意となっている。
規制緩和施策が進み、税理士業務の独占性が緩和されてきた場合、納税者を保護するための職業賠償責任制度の義務化が検討されなければならないだろう。
税務に関する業務を有償で税理士に依頼する納税者にとって、万が一の場合に職業賠償保険制度によって保護されるというシステムが用意されていることは、税理士の社会的信用性に寄与するものと考えられるからである。
賠償責任保険制度の義務化は、依頼を受けた税理士の賠償責任の補填という性格よりは納税者を保護するという性格をもつものでなければならない。
ドイツの場合には、「独立した税理士及び税務代理人はその職業活動より生ずる賠償義務の危険に対して相当な保険をかけなければならない。」(ドイツ税理士法第67条)として保険加入を義務化している。
また、韓国では、「税務士は、その職務を遂行するに当たり、故意又は過失によって依頼人に損害が発生する場合、その損害に対する賠償責任を保障するために、大統領令の定めるところにより保険への加入等、必要な措置を取らなければならない。」(韓国税務士法第16条2)として、1997年1月から強制加入制度が施行されている。
規制緩和施策によって、税理士業務が多様化され、また、業務が拡大される可能性もあるが、税理士法を改正し、税理士業務に関して職業賠償責任保険制度が義務化されることは、税理士制度の公共性を確立するともに、税理士制度の社会的信頼性が担保されることになるものといわなければならない。
(税理士の職業賠償責任保険制度については、本会制度部発行の別冊子「21世紀の税理士制度に向けて」で詳しく論じられるので参照されたい。)